4 地震エコーの実態と地球大気内の電子量と電波伝播の微妙な関係

地球の表面に沿った電波伝播についての研究は電磁波発信受信技術の開発とともに20世紀初めから行われてきた。 地球の裏側に電波が届くという事実から電離層が発見されて微量の電子の存在が電波伝播に大きく影響することが分かってきた。

電子数は地表から上空へ向かって少しずつ増大し100㎞上空では1011個/m3に到達する。 宇宙ステーションが飛ぶ高度400kmでもほぼ同じ数である。電子を含む気体内を電磁波が通過する時、周波数が低くなるほど伝播速度が遅くなる。 そのため周波数が高いほど影響されずに直進できるが、低い周波数では散乱反射されて進路が曲げられる。 地表から上空へ発信された、およそ8Mhz以下の周波数の電磁波は地表へ戻り大気圏内に 閉じ込められる。

影響を受ける周波数fcとイオン密度Ne(1/m3)との間には; fc = 9(Ne)1/2  の関係が成立する。 FM放送波は76-95Mhzであるから、およそ100Mhzとして見積もるとNeは1014個である。 地表1気圧での窒素、酸素など大気分子の総数は 1025個であるから、 地上付近の大気圏内でFM放送波が散乱するのに必要な電子数は大気分子総数のなんと1千億分の1の割合(10-11)である。 高度10㎞以下の大気圏内を伝播する電波はわずかな量の電子のみならず水蒸気の影響を強く受ける。 このため雲によっても屈折したり散乱したりするので複雑な伝播異常がおこる。 異常伝播の変動パターンはパルス状であったり、山なりになっていたり個性があるので見分けることができる。

地震エコーは地震前に地上の断層などのきわめて小さい割れ目から噴出するラドンによって生成されると考えられる。 通常ラドンガスが地表から出る数は微量であるが、大地震発生前に通常の密度の数倍から数十倍の密度が観測された例がある。 密度の高い大気内では確実にアルファ線と衝突する大気分子が存在して電子濃度が高まると思われる。 微量の電子で散乱を受けたFM放送波は現代の高性能半導体(携帯電話やスマートフォンにも使われている)を 使った受信機と日本が世界に誇る八木・宇田アンテナによって検出が可能なのである。

因みに、FM放送を美しい音で受信するためには極力散乱波・反射波や雑電波を遮断することが重要で、 そのためには5素子のFM用八木宇田アンテナを使うことをお勧めする。 読者の一部の方々は都会に住んでいるから大丈夫とお考えかもしれないが、都会はビルが多く規則的な多重反射が起こりやく、 また電子機器から出る雑電波が強いので田舎であろうと都会であろうとアンテナは重要である。 最近増加しているコミュニティFM局の約半数は垂直偏波なので水平垂直両用とするために 八木・宇田アンテナのエレメントを斜めになるように設置したほうがよいかもしれない。 実態は残念ながらリード線を1~2m垂らしただけ、ロッドアンテナを上げただけ、の状態であろう。 裏を返せばいかに半導体の性能が良いかがわかるのであるが、音は歪んでいる(特に高音)し、まして地震エコーの受信はできない。 逆に直達波以外の散乱波を観測するには八木・宇田アンテナを近くの高い山の頂上の方向へ向けると効果的である。 山がなければ高いビルの頭頂部、金属製の建造物などが良いようである。

さてFM放送は世界中で行われており、AM放送に比べて音質が良く雑音にも強いので増加する傾向がある。 問題は外国の放送局の出力がとても強いので日本の地震エコーの観測にも影響しているということである。 日本のFM放送帯は76-90Mhzで、出力は10kwが最大であるが、外国では88-108Mhzであって出力は100kw近い局もある。 日本では中継局がたくさんあるが外国にはほとんどない。だから88Mhz以上の周波数で地震エコーが観測されたとき、 外国の地震前兆を観ている可能性もある。

また外国のアナログテレビの一つの帯域が80MHz付近にある(例えばユジノサハリンスク)ので、これも要注意だ。 実際に地震エコーが観測されてMが予測され、数日の誤差で地震は起こったが、場所が予想とは全く異なる外国だった、という経験があった。その例を示す。

2009年09月29日 サモアのM8.3。 FM帯ではなく64Mhz帯の電波で6月から地震エコーを観測した。 現地のアナログテレビ電波からの地震エコーを受信したと考えられる。 64Mhz帯はFM帯よりも波長が長いのでより薄いイオン濃度で反応するので条件が整えばかなり遠方までも伝播することが想像される。
2016年01月26日 アラスカフェアバンクスのM7.1。予想Mは7.0で時間とMがほぼ一致した。 FM帯89.9Mhz。地元には89.9Mhzで送信出力が非常に強い38kwのFM放送局がある。
2016年04月02日 バヌアツのM6.9。予想はM6.9で時間とMが一致した。 使っているFM帯93Mhzは東京スカイツリーから出ている周波数の一つで、震央が南関東かどうか確かめるため、 東京や千葉などから出ている南関東の電波を検査したところ地震エコーは観測されなかった。 実際には現地のアナログテレビ電波の可能性がある。

参考資料

  • 前田憲一、後藤三男、電波傳播、岩波全書、1953.
  • 細矢良雄監修、電波伝搬ハンドブック、リアライズ社、1999.
  • 三輪 進、賀来信之、アンテナおよび電波伝搬、東京電機大学出版局、1999.
  • Observations of Anomaly in Oversea Long Distance Propagation of TV Broadcasting Waves, Sakai, K., H. Higasa, T. Takano and S. Shimakura, IEEJ Trans.EIS, Vol.123, No.1, 167-168, 2003, (in Japanese).